Column

海外で流行る「IKIGAI」と、
日本人の「いきがい」の違い

〜 3つのいきがいで設計する、
幸せな人生のかたち 〜

2026.04.11 / IKIGAI TOWN 編集部

A案:高齢者の笑顔のクローズアップ

A長寿者たちの、しわとともに深まる笑顔。

B案:畑仕事に励む高齢者

B畑に立つこと、それ自体が“毎日起きる理由”。

C案:地域の寄り合い・人のつながり

C三線の音と、寄り合いの笑い声。支え合う日常。

D案:沖縄の海と集落

D海と山に抱かれた集落で、静かに紡がれる暮らし。

いま、世界中で「IKIGAI」という日本語が、そのままのかたちで広がっています。書店に並ぶ洋書、TEDトーク、ハーバード・ビジネス・レビュー――。「人生100年時代」を迎え、世界の人々は“日本人の生きる知恵”に答えを求め始めました。けれど不思議なことに、海外で語られる「IKIGAI」は、私たち日本人が普段使う「いきがい」とは、少しだけ色合いが違うのです。

1. 世界が見つめる日本と、広がる「IKIGAI」ブーム

ここ数年、世界中のメディアが日本に熱い視線を注いでいます。観光客数は過去最高を更新し、寿司・アニメ・禅といった文化は、もはや“クールジャパン”という枠を越えて、生活や思想のレベルで世界に影響を与えるようになりました。

その中でも、とりわけ注目を集めているのが「IKIGAI」というキーワードです。きっかけは、2017年にスペインの作家エクトル・ガルシアとフランセスク・ミラージェスが刊行した『Ikigai: The Japanese Secret to a Long and Happy Life』という一冊の本でした。沖縄・大宜味村の長寿者たちへの取材をもとに書かれたこの本は、40以上の言語に翻訳され、世界的ベストセラーに。

以来、「IKIGAI」はビジネス書、自己啓発書、コーチング、組織論、はては北欧のウェルビーイング研究にまで登場する、“人生の意味を説明する共通語”になりつつあります。

2. 海外で語られる「IKIGAI」とは? ― 4つの円が重なる場所

海外で語られる「IKIGAI」は、多くの場合、4つの円が重なるベン図で表現されます。この図は、もともとは日本の心理学者ではなく、アメリカのブロガー Marc Winn 氏が2014年ごろに広めたものです。4つの円とは、こうです。

― 海外版 IKIGAI:4つの円 ―

① What you LOVE あなたが
本当に好きなこと
② What you are GOOD AT あなたが
得意としていること
③ What the world NEEDS 世の中が
必要としていること
④ What you can be PAID FOR お金を
もらえること

そして、この4つの円がすべて重なった中心にあるもの――それが「IKIGAI」である、というのが海外版のロジックです。つまり海外のIKIGAIは、ほぼ「天職(vocation)」や「ライフミッション」に近い概念として理解されています。「情熱」と「お金」と「社会貢献」と「才能」が一本の線で結ばれる、ある種のキャリア論なのです。

3. 日本人が共感できるところ、ちょっと戸惑うところ

この海外版IKIGAIを見たとき、私たち日本人は何を感じるでしょうか。「なるほど」と腑に落ちる部分と、「え、そこまでじゃなくていいのでは…?」と少し戸惑う部分の、両方があるはずです。

◎ 共感できるところ

  • 「好きなこと」と「得意なこと」を大切にする感覚
  • 人の役に立つことで満たされる、という価値観
  • 長生きの秘訣は“お金”より“毎日のはり”にある、という直感

これらは日本人にとっても、ごく自然に受け入れられる考え方でしょう。実際、沖縄の長寿者たちも、畑仕事や編み物、孫の世話、地域の寄り合いといった「毎日起きる理由」を持っていました。

△ ちょっと戸惑うところ

一方で、多くの日本人が首をかしげるのは、「お金を稼げること(What you can be paid for)」が必須条件として組み込まれている点ではないでしょうか。

日本人が「いきがい」という言葉で思い浮かべるのは、もっと素朴なものです。早朝のラジオ体操、家庭菜園、孫と過ごす時間、合唱サークル、週末の釣り、ボランティア――。それらは仕事でもなければ、誰かから報酬をもらうわけでもないけれど、紛れもなく“いきがい”と呼べるもの。

ところが海外版IKIGAIでは、そうした「純粋な趣味」はIKIGAIの“手前”にある状態(Passion や Mission)として扱われ、「お金につながって初めて本物のIKIGAI」とされてしまいます。日本人からすると、少しハードルが高く、窮屈にも感じられる解釈です。

言い換えれば、日本人にとってのいきがいは「生きる彩り」に近く、海外のIKIGAIは「生きる柱」に近い。同じ言葉を使いながら、そのスケール感が違うのです。

4. 座談会で聞いた、50代たちの本音

このコラムを書くにあたって、私たちは「いきがい」をテーマに、40代後半〜50代のプロフェッショナル4名をお招きし、計5回の座談会を重ねました。集まっていただいたのは、まったく異なる業界・立場で第一線に立つ4名の方々。同じ世代でも、それぞれの歩みが違えば「いきがい」への向き合い方はこんなにも違う――。そして同時に、驚くほど似ている部分もある。その発見の一部を、ここに共有します。
※プライバシー配慮のため、お名前・所属企業・具体的な職種はすべてイニシャル(仮名)で掲載しています。

― 印象に残った3つの声 ―

「現場から管理職へ――違うフェーズに入っていくことに対して、僕は若干、違和感を感じていて、リアルに悩んでいるんですよね。」
― Participant A/T.M.(50代・イニシャル)
「お金は、やっぱり“十分条件”ではあるけど、“必要条件”ではないと思うんです。別に稼がなくても、ボランティアをしていることが生きがいの人もいる。」
― Participant C/H.Y.(50代・イニシャル)
「社会の根っこを本当に支える立場――ああ、自分がこれを止めたら多くの人が困るんだ、というあの感覚。あれが、自分にとっては一番のやりがいですね。」
― Participant B/K.S.(50代・イニシャル)

― 座談会から浮かび上がった、3つの気づき ―

INSIGHT 01 「ライスワーク期」には、
いきがいを考える余白がない
子育てや住宅ローンに追われる時期は、“生活のために働く”ことで頭がいっぱい。だからこそ、人生の折り返し地点を過ぎた今、じっくり向き合い直す意味がある――という共通認識が浮かび上がりました。
INSIGHT 02 親の死や介護こそが、
最大の「転機」になる
結婚や出産よりも、親を見送ったタイミングや介護と向き合った経験のほうが、自分の人生を根本から問い直させる――複数の方が、そう口を揃えていらっしゃったのが印象的でした。
INSIGHT 03 「好き×得意×求められる」の
ズレは、誰にでもある
海外版IKIGAIの4つの円は、きれいに重なる人のほうが稀。“得意だけど好きじゃない”“好きだけど求められない”――そのズレと、どうつきあうかこそが、人それぞれの工夫なのだと再認識しました。

― そして、浮かび上がった「3段階モデル」 ―

座談会を通じて特に示唆に富んでいたのが、参加者のお一人――医療ヘルスケア分野で事業を営む起業家の方――が語った、「いきがいには3つの段階がある」という視点でした。いきがいは、一度見つけたら終わり、ではない。むしろ、見つけた後こそが本番だ、というのです。

― いきがいの3段階 ―

STEP 01 見つける
STEP 02 育てる
STEP 03 実現する

「見つける」は、自分の好きなこと・得意なこと・社会から求められていることに気づく段階。「育てる」は、それを日々の生活の中で少しずつ磨き、人とのつながりを通じて厚みを増していく段階。そして「実現する」は、育ったいきがいを、具体的な活動や仕事、誰かへの貢献というかたちに結晶させていく段階。
――この3段階のどこで立ち止まっていても、それはそれで意味があります。けれど、できれば次の段階を少しだけ意識しておく。そんな“あそび”が、人生の後半戦を退屈から守ってくれる、と私たちは考えています。

5. 編集部からの提案 ― 「3つのいきがい」を持つという生き方

ここまで、海外版IKIGAIと日本的ないきがい、そして座談会で伺った生の声を重ねてきました。では、そのうえで私たちはどんな生き方を目指せばいいのでしょうか。ここに、私たちなりの提案をひとつ置かせてください。

提案したいのは、「いきがいを3つ持つ」というシンプルなルールです。1つに絞り込もうとしないこと。そして3つのうち1つは、少しだけ背伸びをして、“海外版IKIGAI”を目指してみること。

EDITOR'S VIEW

人生の後半戦を豊かにする「3つのいきがい」を、こんなふうに組み立ててみませんか。

No.01 日々の彩り 朝の散歩、家庭菜園、
趣味の時間。
“毎日起きる理由”
No.02 誰かとのつながり 家族、友人、地域。
人と関わることで
生まれる役割
No.03 海外版IKIGAI 好き × 得意 × 社会 × お金。
少しハードルは高いけれど、
挑戦する価値のある一本

1つめと2つめは、肩の力を抜いて楽しめばいい。けれど、3つめだけは、ほんの少しだけ背伸びをしてみる。「好きなこと」と「得意なこと」を掛け合わせ、それが「誰かの役に立ち」、「わずかでも対価をもらえる」かたちに育てていく。

それは再雇用でもいいし、小さな副業でもいい。地域コミュニティでの活動がいつのまにか仕事になることもあるでしょう。大切なのは、金額の大きさではなく、「自分のしたことに、社会がちゃんと応えてくれた」という手応えを持てることです。

この3つ目があると、1つ目と2つ目の“いきがい”も、ぐっと輝きを増します。そして、海外版IKIGAIのハードルの高さは、人生後半の私たちを退屈から守ってくれる、ちょうど良い“張り”にもなってくれるのです。

「お金の心配」を片づけたその先に、
3つのいきがいを描ける人生が、きっと待っています。
――それが、私たち IKIGAI TOWN の願いです。

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