海外で流行る「IKIGAI」と、
日本人の「いきがい」の違い
〜 3つのいきがいで設計する、
幸せな人生のかたち 〜
いま、世界中で「IKIGAI」という日本語が、そのままのかたちで広がっています。書店に並ぶ洋書、TEDトーク、ハーバード・ビジネス・レビュー――。「人生100年時代」を迎え、世界の人々は“日本人の生きる知恵”に答えを求め始めました。けれど不思議なことに、海外で語られる「IKIGAI」は、私たち日本人が普段使う「いきがい」とは、少しだけ色合いが違うのです。
1. 世界が見つめる日本と、広がる「IKIGAI」ブーム
ここ数年、世界中のメディアが日本に熱い視線を注いでいます。観光客数は過去最高を更新し、寿司・アニメ・禅といった文化は、もはや“クールジャパン”という枠を越えて、生活や思想のレベルで世界に影響を与えるようになりました。
その中でも、とりわけ注目を集めているのが「IKIGAI」というキーワードです。きっかけは、2017年にスペインの作家エクトル・ガルシアとフランセスク・ミラージェスが刊行した『Ikigai: The Japanese Secret to a Long and Happy Life』という一冊の本でした。沖縄・大宜味村の長寿者たちへの取材をもとに書かれたこの本は、40以上の言語に翻訳され、世界的ベストセラーに。
以来、「IKIGAI」はビジネス書、自己啓発書、コーチング、組織論、はては北欧のウェルビーイング研究にまで登場する、“人生の意味を説明する共通語”になりつつあります。
2. 海外で語られる「IKIGAI」とは? ― 4つの円が重なる場所
海外で語られる「IKIGAI」は、多くの場合、4つの円が重なるベン図で表現されます。この図は、もともとは日本の心理学者ではなく、アメリカのブロガー Marc Winn 氏が2014年ごろに広めたものです。4つの円とは、こうです。
― 海外版 IKIGAI:4つの円 ―
本当に好きなこと
得意としていること
必要としていること
もらえること
そして、この4つの円がすべて重なった中心にあるもの――それが「IKIGAI」である、というのが海外版のロジックです。つまり海外のIKIGAIは、ほぼ「天職(vocation)」や「ライフミッション」に近い概念として理解されています。「情熱」と「お金」と「社会貢献」と「才能」が一本の線で結ばれる、ある種のキャリア論なのです。
3. 日本人が共感できるところ、ちょっと戸惑うところ
この海外版IKIGAIを見たとき、私たち日本人は何を感じるでしょうか。「なるほど」と腑に落ちる部分と、「え、そこまでじゃなくていいのでは…?」と少し戸惑う部分の、両方があるはずです。
◎ 共感できるところ
- 「好きなこと」と「得意なこと」を大切にする感覚
- 人の役に立つことで満たされる、という価値観
- 長生きの秘訣は“お金”より“毎日のはり”にある、という直感
これらは日本人にとっても、ごく自然に受け入れられる考え方でしょう。実際、沖縄の長寿者たちも、畑仕事や編み物、孫の世話、地域の寄り合いといった「毎日起きる理由」を持っていました。
△ ちょっと戸惑うところ
一方で、多くの日本人が首をかしげるのは、「お金を稼げること(What you can be paid for)」が必須条件として組み込まれている点ではないでしょうか。
日本人が「いきがい」という言葉で思い浮かべるのは、もっと素朴なものです。早朝のラジオ体操、家庭菜園、孫と過ごす時間、合唱サークル、週末の釣り、ボランティア――。それらは仕事でもなければ、誰かから報酬をもらうわけでもないけれど、紛れもなく“いきがい”と呼べるもの。
ところが海外版IKIGAIでは、そうした「純粋な趣味」はIKIGAIの“手前”にある状態(Passion や Mission)として扱われ、「お金につながって初めて本物のIKIGAI」とされてしまいます。日本人からすると、少しハードルが高く、窮屈にも感じられる解釈です。
言い換えれば、日本人にとってのいきがいは「生きる彩り」に近く、海外のIKIGAIは「生きる柱」に近い。同じ言葉を使いながら、そのスケール感が違うのです。
4. 座談会で聞いた、50代たちの本音
このコラムを書くにあたって、私たちは「いきがい」をテーマに、40代後半〜50代のプロフェッショナル4名をお招きし、計5回の座談会を重ねました。集まっていただいたのは、まったく異なる業界・立場で第一線に立つ4名の方々。同じ世代でも、それぞれの歩みが違えば「いきがい」への向き合い方はこんなにも違う――。そして同時に、驚くほど似ている部分もある。その発見の一部を、ここに共有します。
※プライバシー配慮のため、お名前・所属企業・具体的な職種はすべてイニシャル(仮名)で掲載しています。
― 印象に残った3つの声 ―
「現場から管理職へ――違うフェーズに入っていくことに対して、僕は若干、違和感を感じていて、リアルに悩んでいるんですよね。」― Participant A/T.M.(50代・イニシャル)
「お金は、やっぱり“十分条件”ではあるけど、“必要条件”ではないと思うんです。別に稼がなくても、ボランティアをしていることが生きがいの人もいる。」― Participant C/H.Y.(50代・イニシャル)
「社会の根っこを本当に支える立場――ああ、自分がこれを止めたら多くの人が困るんだ、というあの感覚。あれが、自分にとっては一番のやりがいですね。」― Participant B/K.S.(50代・イニシャル)
― 座談会から浮かび上がった、3つの気づき ―
いきがいを考える余白がない 子育てや住宅ローンに追われる時期は、“生活のために働く”ことで頭がいっぱい。だからこそ、人生の折り返し地点を過ぎた今、じっくり向き合い直す意味がある――という共通認識が浮かび上がりました。
最大の「転機」になる 結婚や出産よりも、親を見送ったタイミングや介護と向き合った経験のほうが、自分の人生を根本から問い直させる――複数の方が、そう口を揃えていらっしゃったのが印象的でした。
ズレは、誰にでもある 海外版IKIGAIの4つの円は、きれいに重なる人のほうが稀。“得意だけど好きじゃない”“好きだけど求められない”――そのズレと、どうつきあうかこそが、人それぞれの工夫なのだと再認識しました。
― そして、浮かび上がった「3段階モデル」 ―
座談会を通じて特に示唆に富んでいたのが、参加者のお一人――医療ヘルスケア分野で事業を営む起業家の方――が語った、「いきがいには3つの段階がある」という視点でした。いきがいは、一度見つけたら終わり、ではない。むしろ、見つけた後こそが本番だ、というのです。
― いきがいの3段階 ―
「見つける」は、自分の好きなこと・得意なこと・社会から求められていることに気づく段階。「育てる」は、それを日々の生活の中で少しずつ磨き、人とのつながりを通じて厚みを増していく段階。そして「実現する」は、育ったいきがいを、具体的な活動や仕事、誰かへの貢献というかたちに結晶させていく段階。
――この3段階のどこで立ち止まっていても、それはそれで意味があります。けれど、できれば次の段階を少しだけ意識しておく。そんな“あそび”が、人生の後半戦を退屈から守ってくれる、と私たちは考えています。
5. 編集部からの提案 ― 「3つのいきがい」を持つという生き方
ここまで、海外版IKIGAIと日本的ないきがい、そして座談会で伺った生の声を重ねてきました。では、そのうえで私たちはどんな生き方を目指せばいいのでしょうか。ここに、私たちなりの提案をひとつ置かせてください。
提案したいのは、「いきがいを3つ持つ」というシンプルなルールです。1つに絞り込もうとしないこと。そして3つのうち1つは、少しだけ背伸びをして、“海外版IKIGAI”を目指してみること。
「お金の心配」を片づけたその先に、
3つのいきがいを描ける人生が、きっと待っています。
――それが、私たち IKIGAI TOWN の願いです。