近くの急性期病院は無くなる?公立病院338の決算で確かめる【2026】
結論から言うと、近くの急性期病院がすぐ無くなる可能性は高くありません。地域の救急を担う公立病院338の令和6年度決算を1件ずつ読むと、会計上の赤字は93.8%にのぼりますが、実際に現金が減っているのは52.4%で、その手元資金がもつ月数の中央値は68.9か月(約5年9か月)あります。ただし数字が薄い病院も確かにあり、そこで家計に効いてくるのは治療費ではなく、通院にかかる時間と交通費です。
この記事の結論
- 「病院の8割が赤字」は会計上の話。現金が出ていかない減価償却費を差し引くと、実際に現金が減っているのは半分程度です。
- すぐ資金が尽きる病院はごく一部。現金が減っている病院でも、そのペースで持ちこたえられる月数の中央値は68.9か月です。
- 原因は病院の努力不足ではありません。物価が4年度で12.3%上がる一方、診療の価格である診療報酬本体の引き上げは累積1.3%。病院は価格を自分で決められません。
- あなたの窓口負担は変わりません。自己負担の割合も高額療養費の限度額も国が決める制度で、病院の経営状況では動きません。
- 効いてくるのは通院コストと救急の搬送先。診療科の縮小や再編が起きると、同じ治療を受けるための移動距離と時間が変わります。
1. 「病院の8割が赤字」の中身
病院の経営を伝える記事では「8割が赤字」という数字がよく使われます。実際、総務省が公表している令和6年度の決算資料から、地域の救急を担う公立病院338(DPC対象病院)を数えると、経常赤字は317病院・93.8%でした。20病院のうち19病院です。
ただし、この「赤字」には減価償却費という費用が含まれています。建物や医療機器を買ったときの金額を、使う年数で割って毎年の費用に配分したもので、その年に現金が出ていくわけではありません。高額な検査機器や手術設備を抱える急性期病院ほど、この費用は大きくなります。
そこで減価償却費を差し引いて「その年に現金がいくら減ったか」に近づけると、数字は変わります。
| 区分 | 病院数 | 割合 |
|---|---|---|
| 会計上の経常赤字 | 317 | 93.8% |
| うち 現金は減っていない | 140 | ─ |
| うち 現金も減っている | 177 | 52.4% |
会計上は赤字でも、現金は減っていない病院が140あります。「赤字=資金が消えている」ではありません。
2. すぐ無くなるわけではない理由
では現金が減っている177病院は、どれくらい持ちこたえられるのでしょうか。手元にある現金を、1か月あたりの減り方で割ると、その病院が同じペースで何か月もつかが分かります。
計算すると、中央値は68.9か月。約5年9か月です。半数以上の病院には、体制を組み直すための時間がまだあります。実際、この177病院のうち52%は60か月(5年)以上の余裕がありました。
一方で、12か月を切るのは25病院です。さらにそのうち23病院は、月々の支払いに使える手元資金も1か月分を下回っていました。この23病院を合わせると7,677床になります。
数としては全体の1割弱ですが、いずれも地域で救急を引き受けている病院です。「全部が危ない」でもなければ「どこも大丈夫」でもない、という読み方が実態に近いと考えられます。
3. なぜこうなっているのか ── 物価と診療報酬
ここが、この話でいちばん誤解されやすいところです。病院の数字が悪くなっているのは、経営の巧拙だけが理由ではありません。
病院は、診療の価格を自分で決められません。診察料も手術料も検査料も「診療報酬」という公定価格で決まっており、改定は原則2年に1度、国が決めます。スーパーやレストランのように、仕入れが上がったから値札を書き換える、ということができない仕組みです。
その一方で、人件費・電気代・医薬品・診療材料・給食や清掃の委託費は、市場価格で上がります。この4年度の動きを並べると、差がはっきりします。
| 年度 | 消費者物価指数(2020年=100) | 前年度比 | 診療報酬本体の改定 |
|---|---|---|---|
| 2021年度 | 100.0 | +0.1% | ─ |
| 2022年度 | 103.2 | +3.2% | +0.43% |
| 2023年度 | 106.3 | +3.0% | ─ |
| 2024年度 | 109.5 | +3.0% | +0.88% |
| 2025年度 | 112.3 | +2.6% | ─ |
| 4年度の累計 | +12.3% | +1.3% | |
物価が12.3%上がる間に、収入側の価格は1.3%。この差を病院の努力で埋めることは、構造的にできません。買うものの値段は上がるのに、売るものの値段は他人が決めている、という状態だからです。
なお2026年度の診療報酬改定は本体で+2.41%と、薬価を含めた全体でも12年ぶりのプラス改定になりました。ただしこの記事で見ている令和6年度の決算には、まだ反映されていません。
4. わたしの医療費は上がるのか
保険診療の窓口負担は、病院の経営状況では変わりません。(紹介状なしの特別料金や差額ベッド代など保険外の費用は、病院ごとに定められます)
自己負担の割合(原則3割、年齢や所得に応じて1割・2割)も、ひと月の自己負担に上限を設ける高額療養費制度の限度額も、国が定める全国共通のルールです。近くの病院の決算が厳しいからといって、同じ治療の窓口負担が高くなることはありません。
影響が出るとすれば、医療費そのものではなく「たどり着くまでの負担」です。
- 通院の交通費と時間:診療科が縮小して別の病院に移ると、片道の距離が変わります。週1回の通院が半年続くような治療では、交通費の差が実額として効いてきます。
- 付き添いの負担:家族が付き添う場合、移動時間の増加はそのまま仕事を休む時間の増加になります。
- 救急のときの搬送先:救急は「近いところ」ではなく「受け入れられるところ」に運ばれます。地域の受け入れ先が減れば、搬送に要する時間が変わる可能性があります。
つまりこれは、医療費の話というより生活コストと時間の話です。
5. いま家庭で確認できること
個別の病院がどうなるかを予測することはできませんが、備えとして確認できることはあります。
- 自治体の広報とお知らせを見る:診療科の休止や外来体制の変更は、多くの場合まず自治体の広報誌や病院のウェブサイトで告知されます。病院の再編は議会での予算審議を伴うため、突然決まることはあまりありません。
- 「救急のとき、どこに運ばれうるか」を家族で共有する:自宅から救急車で運ばれる可能性のある病院を把握し、公共交通で家族が向かえるかを確認しておきます。
- 通院が続く治療になったときの交通費を見積もる:現在かかっている病院と、次に近い選択肢との距離差を一度だけ調べておくと、いざというときの判断材料になります。
- 公的な制度の位置を確認しておく:高額療養費制度は、加入している健康保険に申請します。限度額適用認定証を先に用意しておくと、窓口での立て替えを避けられます。
6. この記事の数字について
本記事の病院の数字は、総務省が公表している「病院事業決算状況(令和6年度)」の全47都道府県資料から、編集部が公立病院841病院分を抽出し、診療収支が計上される708病院のうちDPC対象338病院を集計したものです。行っているのは公表値の四則演算と集計のみで、推計や将来予測は含みません。個別の病院名は掲載していません。
また、ここで使った「手元資金がもつ月数」は、追加の繰入金や借入がまったくない場合の計算値です。実際には自治体からの繰入金があり、地方公営企業には月内の資金繰りに充てる一時借入金の制度もあります。特定の病院が1年以内に無くなる、という意味ではありません。
より詳しい集計は、報道関係者向けの資料としてプレスリリース(2026年9月1日)で公開しています。都道府県別・病床規模別のデータもそちらで配布しています。
よくある質問
- 近くの公立病院が急に無くなることはありますか?
- 急にゼロになる例はまれです。急性期を担う公立病院338のうち現金が実際に減っているのは177病院で、その手元資金がもつ月数の中央値は68.9か月(約5年9か月)です。病院の再編は通常、自治体の計画や議会での議論を経て数年かけて進むため、広報や公表資料で事前に把握できます。
- 病院の経営が苦しいと、わたしの医療費は上がりますか?
- 窓口で払う自己負担の割合や高額療養費の限度額は、病院の経営状況では変わりません。これらは国が決める制度で全国共通です。家計に影響が出るとすれば、医療費そのものではなく、通院先が遠くなったときの交通費や付き添いの時間です。
- なぜ病院は値上げして赤字を埋めないのですか?
- 診療の価格は診療報酬という公定価格で決まっており、病院が自由に決めることはできません。改定は原則2年に1度です。2021年度から2025年度にかけて消費者物価は12.3%上がりましたが、同じ期間の診療報酬本体の引き上げは累積1.3%でした。
- かかりつけの病院について、いま確認しておくとよいことは何ですか?
- 自治体の広報や病院のお知らせで、診療科の変更や外来体制の見直しが告知されていないかを確認します。あわせて、救急のときに搬送される可能性のある病院が自宅からどれくらいの距離にあるか、公共交通で行けるかを家族で共有しておくと、いざというときの判断が早くなります。
参考にした公的情報
- 総務省「病院事業決算状況・病院経営比較表(令和6年度)」(全47都道府県資料)
- 総務省統計局「2020年基準 消費者物価指数 全国 2026年3月分及び2025年度平均」(2026年4月24日公表)
- 厚生労働省「診療報酬改定について」(各年度の改定率)
- 厚生労働省 第120回社会保障審議会医療部会 参考資料1「WAM NET公表用集計データまとめ」(2025年10月27日)
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近くの病院がこの先も続くのか、続かないとしたら家計に何が効くのかを知りたい
「近くの急性期病院は無くなる?公立病院338の決算で確かめる【2026】」を調べた人へ。近くの病院がこの先も続くのか、続かないとしたら家計に何が効くのかを知りたいという迷いは、次の3点に分けると確認できます。
判断・確認の期限
かかりつけの診療科変更や再編の告知を見たとき、または通院が続く治療が始まる前
この記事で分かること
公表決算に基づく全体像と、窓口負担の割合や高額療養費の限度額は病院の経営状況では変わらないことを本文で確認できます。個別の病院を調べなくても検索目的を完了できます。
次の確認先・準備
自治体の広報と病院のお知らせで診療体制の告知を確認し、救急時に搬送されうる病院と通院にかかる時間・交通費を家族で共有してください。