── 現金が実際に減っているのは177病院(52.4%)、消耗額は月64億円(現金が増えている161病院と差し引くと月14億円)。ただし手元資金がもつ月数の中央値は68.9か月で、大半にはまだ時間の余裕があります。急ぐ必要があるのは、消耗と月内の支払い余力がともに限界にある23病院・7,677床です。
IKIGAI TOWN 編集部は、総務省が公表している「病院事業決算状況(令和6年度)」の全47都道府県資料から公立病院841病院の決算を機械抽出し、診療収支が計上される708病院のうちDPC対象338病院(=急性期入院医療を担う病院群)を分析しました。会計上の経常赤字は317病院(93.8%)。現金が出ていかない減価償却費を戻すと、実際に現金を減らしているのは177病院(52.4%)で、消耗額は月64億円・年771億円です。ただしこれは減っている病院だけを足した額で、増えている161病院(年+606億円)と差し引くと、338病院全体では年165億円・月14億円の減少にとどまります。
数字を読む前に、母集団を示します。公立病院には50床規模の町村立病院から500床超の中核病院までが混在しており、全体を平均すると読者が思い浮かべる「地域の急性期病院」の像がぼやけます。そこで本リリースは、DPC対象病院(急性期入院医療の包括評価を受ける病院=急性期の公的な線引き)に絞って分析し、対象外の病院群は比較のために併記します。
| 区分 | DPC対象 338病院(急性期) | DPC対象外 370病院 |
|---|---|---|
| 病床数 | 中央値 320床/合計 116,244床。100床未満は11、500床以上は63 | 中央値 89床/合計 37,515床。100床未満が237、500床以上は0 |
| 医業収益 | 中央値 72億円/合計 3兆0,508億円 | 中央値 9億円/合計 4,549億円 |
| 病床利用率 | 中央値 71.8% | 中央値 64.3% |
| 救急告示 | 329病院(97.3%) | 297病院(80.3%) |
| 設置主体 | 市・特別区立 204(60.4%)/都道府県立 72(21.3%)/一部事務組合・広域連合等 50(14.8%)/町村立 12(3.6%) | 市・特別区立 138(37.3%)/町村立 129(34.9%)/都道府県立 54(14.6%)/一部事務組合等 49(13.2%) |
| 経営形態 | 直営 303/指定管理者 35 | 直営 339/指定管理者 31 |
| 病院区分 | 一般病院 338(100%) | 一般病院 342/精神科病院 28 |
| 他会計繰入金 対経常収益比率 | 中央値 10.2% | 中央値 25.6% |
出典:総務省「病院事業決算状況(令和6年度)」全47都道府県資料より編集部が抽出・集計。DPC対象・救急告示の別は同資料の各病院の記載欄から取得(841病院すべて取得)。
DPC対象338病院は、中央値で320床・医業収益72億円、97%が救急告示を受けています。6割は市・特別区が設置し、経常収益に占める繰入金は中央値10.2%。つまり診療収入で大半を賄いながら、地域の救急を引き受けている病院群です。対象外の370病院(中央値89床・9億円・繰入25.6%)とは、性格がはっきり分かれます。
総務省「病院事業決算状況(令和6年度)」より編集部作成。現金ベース=経常損益+減価償却費。
同じ「病院の現金はどう減っているか」という問いを、開設主体ごとに調べた3本です。ただし公表されている財務データの粒度が主体ごとに違うため、答えられる深さも違います。数字を横に並べる前に、この差をご確認ください。
| リリース | 対象 | 分析の単位 | 急性期に絞れるか |
|---|---|---|---|
| 9月1日 公立病院 | 公立病院708 (うちDPC対象338を主分析) | 病院ごとの 貸借対照表 | できる。総務省資料に病院ごとのDPC対象・救急告示の記載がある |
| 9月2日(公開予定) 国立病院機構・JCHO | NHO 139施設 JCHO 57施設 | 施設ごとの 貸借対照表 | できない。施設別財務諸表に病床数・DPC対象の記載がない |
| 9月3日(公開予定) 国立大学病院 | 附属病院を持つ41法人 | セグメントの 資金収支のみ | できない。貸借対照表が大学全体で1枚しかなく、病院単独の現金残高が存在しない |
したがって3本の数字は、そのままでは比較できません。9月1日は「急性期に絞った病院ごとの残高」、9月2日は「法人と施設の残高」、9月3日は「1年間に出入りした資金」を見ています。共通しているのは、会計上の赤字と、実際に現金が減っているかは別だという一点だけです。
病院の経常損益には減価償却費が費用として含まれます。これは建物や医療機器の取得額を耐用年数に配分した会計上の費用で、その年に現金が出ていくわけではありません。設備を多く抱える急性期病院ほど、減価償却費は大きくなります。
本リリースで用いた計算式
現金ベースの年間収支 = 経常損益 + 減価償却費
ランウェイ(か月) = 現金及び預金 ÷ (現金ベースの年間赤字 ÷ 12)
支払いバッファ(か月) = 現金及び預金 ÷ (経常費用 − 減価償却費)÷ 12
現金ベースの収支がプラスの病院は、会計上は赤字でも現金は減っていません。ランウェイはマイナスの病院についてのみ計算しています。なお本式は長期前受金戻入などの非現金収益を控除しておらず、企業債元金償還も含みません。実際の現預金増減とは、その分だけ乖離します。
| 区分 | 急性期 338病院 | (参考)公立病院全体 708病院 |
|---|---|---|
| 会計上の経常赤字 | 317(93.8%) | 596(84.2%) |
| うち 現金は減っていない | 140 | 272 |
| うち 現金ベースでも赤字 | 177(52.4%) | 324(45.8%) |
| 消耗額の合計(減っている病院のみ) | 月64億円/年771億円 | 月80億円/年959億円 |
| 現金が増えている病院の合計 | 年+606億円(161病院) | 年+851億円(384病院) |
| 差し引き(ネット) | 年△165億円/月△14億円 | 年△108億円/月△9億円 |
| 1病院あたり月次消耗額(中央値) | 0.29億円 | 0.15億円 |
出典:総務省「病院事業決算状況(令和6年度)」より編集部が抽出・集計。公立病院全体の消耗額80億円のうち64億円(80%)が急性期338病院に集中しています。消耗額は「現金が減っている病院だけを足した額」で、増えている病院とは相殺していません。群全体で現金がいくら減ったかを見るときは、差し引き(ネット)の行をご覧ください。
| ランウェイ | 病院数 | 177病院に占める割合 |
|---|---|---|
| 3か月未満 | 9 | 5.1% |
| 3〜6か月 | 6 | 3.4% |
| 6〜12か月 | 10 | 5.6% |
| 12〜24か月 | 21 | 11.9% |
| 24〜60か月 | 39 | 22.0% |
| 60か月以上 | 92 | 52.0% |
| 中央値 | 68.9か月 | |
ランウェイは「令和6年度と同じ速度で消耗が続き、追加の繰入・借入がない場合」の計算値です。実際の資金繰りを予測するものではありません。
消耗している急性期病院の52%はランウェイが60か月(5年)以上あり、中央値は68.9か月です。急性期の公立病院がすぐ資金ショートするという状況ではありません。一方で12か月未満が25病院あります。
病院の収入の大部分を占める診療報酬は、診療した月の翌月10日までに審査支払機関へ請求し、支払はさらにその翌月です(社会保険診療報酬支払基金・国民健康保険団体連合会の審査支払スケジュール)。一方、給与や仕入代金の支払いは月内の決まった日に発生します。支払日が休日や連休にあたれば前倒しになり、その数日のずれは手元現金で埋めるしかありません。ランウェイに余裕があっても、月内の数日を越えられなければ支払いは滞りえます(一時借入金等の手当てがない場合)。
| ランウェイ12か月未満 | 12か月以上 | 現金は減っていない | |
|---|---|---|---|
| 支払いバッファ 1か月未満 | 23 | 25 | 31 |
| 支払いバッファ 1か月以上 | 2 | 127 | 130 |
支払いバッファが1か月未満の急性期病院は79(23.4%)。ランウェイ12か月未満25病院のうち、23病院はバッファも1か月分を切っています。
| 項目 | 値 |
|---|---|
| ランウェイの中央値 | 4.3か月 |
| 月次消耗額の合計 | 13.0億円 |
| 病床数の合計 | 7,677床 |
| うち 不良債務がゼロ | 14病院(61%) |
| うち 健全化法上の資金不足額の計上なし | 14病院(61%) |
| (参考)ランウェイ12か月未満25病院のうち不良債務ゼロ | 15病院(60%) |
不良債務・健全化法上の資金不足額は、総務省資料に各病院ごとに記載されている値をそのまま用いています。この23病院の病床合計7,677床は、公立病院全体で両軸が限界にある37病院・9,180床の84%にあたります。
不良債務や資金不足比率は、年度末時点のストックの過不足を測る指標として設計されています。会計年度単位で財政の健全性を判断するという目的からすれば合理的です。
一方で支払いは月内のどこかの日に発生します。年度末のストックが釣り合っていても、入金と支払いの数日のずれは映りません。本リリースが示すのは「法定指標が間違っている」ということではなく、2つが別のものを測っており、後者を見る仕組みが制度の側にないということです。
| 病床規模 | 病院数 | 現金が減っている | ランウェイ12か月未満 | 両方の軸が限界 |
|---|---|---|---|---|
| 200床未満 | 76 | 37 | 2 | 1 |
| 200〜300床未満 | 61 | 40 | 9 | 8 |
| 300〜400床未満 | 87 | 50 | 9 | 9 |
| 400〜500床未満 | 51 | 23 | 2 | 2 |
| 500床以上 | 63 | 27 | 3 | 3 |
各行の合計は急性期338病院と一致します。200〜400床の中規模に、両軸が限界の23病院のうち17病院が集中しています。地域で救急を引き受けながら、規模の経済が働きにくい帯です。
ここまでの数字は「病院がどう頑張ったか」をほとんど説明しません。病院は診療の価格を自ら決められないからです。診療報酬は公定価格で、改定は原則2年に1度、内閣が改定率を決めます。
そこで、この決算期間に挟まる物価と診療報酬を並べます。
| 年度 | 消費者物価指数 (2020年=100) | 前年度比 | 診療報酬本体の改定率 |
|---|---|---|---|
| 2021年度 | 100.0 | +0.1% | ─ |
| 2022年度 | 103.2 | +3.2% | +0.43% |
| 2023年度 | 106.3 | +3.0% | ─ |
| 2024年度 | 109.5 | +3.0% | +0.88% |
| 2025年度 | 112.3 | +2.6% | ─ |
| 2021年度→2025年度 | +12.3% | 累積 +1.3% | |
出典:総務省統計局「2020年基準 消費者物価指数 全国 2026年3月分及び2025年度平均」(2026年4月24日公表)表7/厚生労働省の各年度診療報酬改定。改定率は本体(医科・歯科・調剤の技術料等)で、薬価等を含む全体改定率は各回いずれもマイナスです。累積は1.0043×1.0088から算出。
物価が12.3%上がる間に、診療報酬本体の引き上げは累積1.3%にとどまりました。差は約11ポイントです。人件費・光熱費・医薬品・診療材料・委託費はいずれも市場価格で上がる一方、収入側の単価は公定価格で据え置かれる。この差を病院の経営努力で埋めることは、構造的にできません。
言えること:収入側の価格改定が、一般物価の上昇に追いついていない。公立病院の経常収支比率も、この期間に102.4%(令和2年度)から93.4%(令和6年度)へ低下しています(総務省公表値)。
言えないこと:消費者物価指数は家計が買うものの価格で、病院の仕入構成とは異なります。病院の費用は人件費が最大で、物価指数とは動きが違います。また改定率は全国平均であり、個々の病院の収入増減とは一致しません。したがって「11ポイントの差がそのまま病院の損失」ではありません。
2026年度の改定は本体+2.41%(2026・2027年度の2年度平均で+3.09%)で、薬価を含む全体でも+2.22%と12年ぶりのネットプラスです。ただし本リリースが分析した令和6年度決算には反映されていません。
| 分析主体 | IKIGAI TOWN 編集部(スペシャリスト・ドクターズ株式会社) |
|---|---|
| 調査テーマ | 公立病院のうちDPC対象病院(地域の急性期)について、現金ベースの消耗額・ランウェイ・支払いバッファを算出し、法定の健全性指標および物価・診療報酬の推移と対応させる |
| 出典 | 総務省「病院事業決算状況(令和6年度)」全47都道府県資料(https://www.soumu.go.jp/main_sosiki/c-zaisei/hospital/kessan-bunseki/R06.html)/総務省統計局「2020年基準 消費者物価指数 全国 2026年3月分及び2025年度平均」(https://www.stat.go.jp/data/cpi/sokuhou/nendo/pdf/zen-nd.pdf)/厚生労働省「診療報酬改定について」(https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/0000106602.html) |
| 対象 | 同資料に収載された841病院のうち、医業収益が計上され月次現金支出が算出できる708病院。うちDPC対象338病院を主分析対象とし、対象外370病院は比較のため併記。DPC対象・救急告示の別は同資料の各病院の記載欄から取得(841病院すべてマッチ)。指定管理者制度等により病院会計に診療収支が計上されない病院、法非適用会計の病院は対象外 |
| 編集部の計算 | PDFからテキストを機械抽出し、損益計算書・貸借対照表の各項目を取得。現金ベースの年間収支=経常損益+減価償却費。ランウェイ=現金及び預金÷(現金ベースの年間赤字÷12)。支払いバッファ=現金及び預金÷(経常費用−減価償却費)÷12。推計・将来予測は行っていない |
| 検算 | 抽出した708病院の合算値が総務省公表値と整合することを確認した。経常収支比率93.0%(総務省公表の全国平均93.4%)、累積欠損金1兆9,213億円(同公表1兆9,992億円。公表値は地方独立行政法人を含む)。また各病院で「経常収益−経常費用=経常損益」が成立することを全件照合し、不一致0件 |
| 確認日 |
「8割が赤字」で終わらせると、急ぐべき23病院が埋もれる
公立病院の経営を伝える記事では「8割が赤字」という数字がよく使われます。ただ公立病院には50床規模の町村立病院から500床超の中核病院までが混在していて、平均すると読者が思い浮かべる病院の像がぼやけます。地域の救急を担うDPC対象338病院に絞ると、経常赤字は93.8%。20病院に19病院です。
それでも、そこから現金が出ていかない減価償却費を戻すと、実際に現金が減っているのは52.4%。さらにランウェイの中央値は68.9か月あります。急性期の公立病院がすぐ資金ショートするという話ではありません。多くの病院には、体制を組み直すための時間がまだあります。
問題は残りです。ランウェイ12か月未満が25病院、そのうち23病院は月内の支払い余力も1か月分を切っています。この23病院で7,677床。公立病院全体で両軸が限界にある病床の84%がここに集まっています。そして61%は不良債務ゼロで、法定の健全性指標には何も表示されません。
もうひとつ、数字を読むうえで外せないことがあります。この4年度で消費者物価は12.3%上がり、診療報酬本体の引き上げは累積1.3%でした。病院は診療の価格を自分で決められません。人件費も光熱費も診療材料も市場価格で上がる一方、収入側は公定価格です。この差は、経営努力で埋められる性質のものではありません。2026年度の改定は本体+2.41%と12年ぶりのネットプラスになりましたが、今回分析した令和6年度決算には届いていません。
私たちが提案したいのは、病院の評価ではなく指標を2つ並べることです。決算に載っている現金及び預金・経常損益・減価償却費・経常費用があれば、ランウェイも支払いバッファも誰でも計算できます。厚生労働省はすでに医療法人向けに「現預金回転期間」(現金及び預金÷事業収益の12分の1)という同じ発想の指標を採用しています(第120回社会保障審議会医療部会 参考資料1「WAM NET公表用集計データまとめ」2025年10月27日)。並べるだけで、急ぐべき23病院に当たりを付けられます(月内の資金繰りそのものを見るには、年次指標ではなく月次の現預金と支払予定の把握が要ります)。
私たちはFP相談を通じて、患者さんとご家族の側から医療費の相談を受けてきました。地域の急性期病院が続くかどうかは、家計にとっては医療費の話ではなく、救急のときにどこまで運ばれるか、通院にどれだけ時間と交通費がかかるかという話です。だからこの数字は、病院を責めるためではなく、支援が早く届くために公開します。
IKIGAI TOWN 編集長 塩飽哲生