── 厚生労働省は「令和8(2026)年10月に撤廃予定」と公表した。同じリーフレットの脚注に、撤廃後も加入しない人がいると書いてある。
パートで働く人が社会保険に入る要件のひとつ「賃金が月額8.8万円以上」──いわゆる106万円の壁は、令和8(2026)年10月に撤廃される予定です(厚生労働省リーフレット、令和8(2026)年1月作成)。理由は、令和7年度の地域別最低賃金が全47都道府県で時給1,016円を超え、週20時間働けば自動的に月額8.8万円に達するようになったためです。
ただし「週20時間働けば誰でも加入する」わけではありません。撤廃後も壁が残るケースが、厚生労働省自身の資料に2つ書かれています。
厚生労働省「短時間労働者の社会保険の加入拡大のポイント」(令和8(2026)年1月作成)および「年金制度改正法の概要」より編集部作成
厚生労働省は令和8(2026)年1月作成のリーフレット「短時間労働者の社会保険(健康保険・厚生年金保険)の加入拡大のポイント」で、賃金要件の撤廃時期を示しています。
厚生労働省「短時間労働者の社会保険(健康保険・厚生年金保険)の加入拡大のポイント」(令和8(2026)年1月作成)
ポイント1 最低賃金の上昇により、週20時間以上働く方は、自動的に社会保険の加入要件を満たすため、賃金要件を意識する必要がなくなります
ポイント2 賃金要件(いわゆる年収106万円の壁)は令和8(2026)年10月に撤廃予定
今般、全ての都道府県で令和7年度地域別最低賃金が時給1,016円を超えたことにより、週20時間以上働くすべての方が自動的に社会保険の加入対象になるため、令和7年年金制度改正法に基づき、令和8(2026)年10月に賃金要件を撤廃する予定です。
年金制度改正法の概要では、賃金要件の撤廃は「公布から3年以内の政令で定める日から施行」とされ、時期は「全国の最低賃金が1,016円以上となることを見極めて」判断するとされていました。その見極めの結果が、この令和8(2026)年10月という時期です。
賃金要件の判定は、年収ではなく月額88,000円で行われます。これを週20時間で満たす最低の時給を逆算すると、88,000円 × 12か月 ÷ 52週 ÷ 20時間 = 1015.38円。切り上げて1,016円です。リーフレットも「賃金が時給1,016円以上になった場合に、週20時間以上働くと、月額賃金が8.8万円以上となり、自動的に賃金要件を満たします。」と記しています。
令和7年度の地域別最低賃金は、最も低い高知・宮崎・沖縄で1,023円、全国加重平均1,121円(改定前1,055円、+66円・6.3%)。改定前に1,016円以上だったのは12都道府県のみで、残る35都道府県はこの1年で基準を超えました。
厚生労働省「令和7年度 地域別最低賃金 全国一覧」より編集部作成。薄い丸が改定前、濃い丸が改定後。
| 区分 | 時間額 | 月額換算 (判定単位) | 年額換算 |
|---|---|---|---|
| 撤廃基準として挙げられた額 | 1,016円 | 88,053円 | 1,056,640円 |
| 最も低い 高知・宮崎・沖縄 | 1,023円 | 88,660円 | 1,063,920円 |
| 全国加重平均 | 1,121円 | 97,153円 | 1,165,840円 |
| 最も高い 東京 | 1,226円 | 106,253円 | 1,275,040円 |
| 賃金要件(判定に使う額) | 88,000円 | 1,056,000円 | |
出典:厚生労働省「令和7年度 地域別最低賃金 全国一覧」。換算は時間額×20時間×52週で編集部が機械的に計算したもの(月額はその1/12)。賃金要件は月額8.8万円(88,000円)で判定されます。88,000円×12=1,056,000円であり、「106万円」は通称です。発効日は都道府県ごとに異なり、令和7年10月1日から令和8年3月31日までの幅があります(18通り)。
リーフレットの本文には、撤廃を示す図の下に脚注が付いています。
同リーフレット ※2
ただし、最低賃金法では一定の場合に最低賃金の減額を許可する特例があり、この特例の対象となる短時間労働者のうち、月額賃金8.8万円未満である方は、原則社会保険に加入しないこととなります(申出により任意で加入することは可能。)。
最低賃金には、都道府県労働局長の許可を条件に、最低賃金額を下回る賃金を認める制度があります。最低賃金法第7条です。
最低賃金法(昭和34年法律第137号)第7条(最低賃金の減額の特例)
使用者が厚生労働省令で定めるところにより都道府県労働局長の許可を受けたときは、次に掲げる労働者については、当該最低賃金において定める最低賃金額から当該最低賃金額に労働能力その他の事情を考慮して厚生労働省令で定める率を乗じて得た額を減額した額により第四条の規定を適用する。
一 精神又は身体の障害により著しく労働能力の低い者
二 試の使用期間中の者
三 職業能力開発促進法(昭和四十四年法律第六十四号)第二十四条第一項の認定を受けて行われる職業訓練のうち職業に必要な基礎的な技能及びこれに関する知識を習得させることを内容とするものを受ける者であつて厚生労働省令で定めるもの
四 軽易な業務に従事する者その他の厚生労働省令で定める者
この許可を受けている労働者は、地域別最低賃金より低い時給で働くことがあります。その結果、週20時間働いても月額88,000円に届かない場合、賃金要件が撤廃されたあとも原則として社会保険に加入しません。リーフレットはこれを「申出により任意で加入することは可能」と補っています。
つまり「106万円の壁がすべての人から消える」わけではありません。この特例の許可件数は公表されていないため、該当する人数を示すことはできません。本リリースでも人数の推計は行っていません。
賃金要件が撤廃されても、企業規模要件は残ります。しかも撤廃の時点では、現在と同じ従業員51人以上のままです。縮小が始まるのは、その1年後からです。
| 対象となる企業 | 時期 |
|---|---|
| 従業員51人以上 | 現在(賃金要件が撤廃される令和8(2026)年10月時点でもこの区分) |
| 従業員36人以上 | 令和9(2027)年10月から |
| 従業員21人以上 | 令和11(2029)年10月から |
| 従業員11人以上 | 令和14(2032)年10月から |
| 従業員10人以下 | 令和17(2035)年10月から |
出典:厚生労働省「短時間労働者の社会保険の加入拡大のポイント」(令和8(2026)年1月作成)ポイント3。なお企業規模要件を満たさない企業でも、「従業員の2分の1以上の同意があれば、短時間労働者も社会保険に加入することができます」とされています(任意加入)。従業員数は厚生年金保険の被保険者数で判断します。
したがって、令和8(2026)年10月の時点で「週20時間以上働けば誰でも社会保険に入る」と言えるのは、従業員51人以上の企業で働く人に限られます。50人以下の企業で働く短時間労働者は、労使の合意による任意加入がなければ、令和9(2027)年10月から以降の縮小を待つことになります。
短時間労働者の適用要件を4つ挙げるとき、「2か月を超える雇用の見込みがあること」を含める解説が見られます。しかし日本年金機構が挙げる要件は、次の4つです。
日本年金機構「短時間労働者に対する健康保険・厚生年金保険の適用の拡大」
① 週の所定労働時間が20時間以上であること
② 所定内賃金が月額8.8万円以上であること
③ 学生でないこと
④ 特定適用事業所(従業員51人以上)に使用されていること
2か月のルールは、この4要件とは別の位置にあります。同機構は「2カ月以内の期間を定めて使用される方や臨時に使用される方等は健康保険・厚生年金保険の加入対象から除かれます」と説明しており、これは短時間労働者に固有の要件ではなく、正社員も含めた一般の適用除外規定です。2022年10月に、短時間労働者だけに課されていた「1年以上の雇用見込み」という要件が撤廃され、一般と同じ扱いに一本化されました。
日本年金機構は、加入対象になる学生として「卒業見込証明書を有する方で、卒業前に就職し、卒業後も引き続き同じ事業所に勤務する予定の方、一部の教育施設に在学する方、休学中の方、大学の夜間学部および高等学校の夜間等の定時制の課程の方等」を挙げています。夜間・通信制・定時制の学生や休学中の人は、加入の対象です。「学生は一律に対象外」という理解は正確ではありません。
| 分析主体 | IKIGAI TOWN 編集部(スペシャリスト・ドクターズ株式会社) |
|---|---|
| テーマ | 令和8(2026)年10月に予定される賃金要件(いわゆる106万円の壁)の撤廃と、撤廃後も加入対象にならないケース |
| 主な出典 | 厚生労働省「短時間労働者の社会保険(健康保険・厚生年金保険)の加入拡大のポイント」(令和8(2026)年1月作成) |
| 制度の出典 | 厚生労働省「年金制度改正法の概要」Ⅰ1 被用者保険の適用拡大/日本年金機構「短時間労働者に対する健康保険・厚生年金保険の適用の拡大」 |
| 条文 | 最低賃金法(昭和34年法律第137号)第7条(e-Gov法令検索) |
| 最低賃金データ | 厚生労働省「令和7年度 地域別最低賃金 全国一覧」(47都道府県・全国加重平均1,121円) |
| 編集部の計算 | 公表値どうしの差の引き算と、時間額×20時間×52週による月額・年額換算のみ。推計は行っていない |
| 検算 | 47都道府県すべてについて、公表された引上げ額・引上げ率が改定前後の額と整合することを機械的に確認した。引用は出典PDFの抽出テキストと機械照合している |
| 確認日 |
「壁がなくなる」と「誰でも入れるようになる」は別の話
賃金要件の撤廃は、厚生労働省がリーフレットで公表している事項です。本リリースが整理したのは、その先にある「では誰が加入対象になるのか」という部分です。ここが、報じられ方と実際の制度でずれやすいところだと考えています。
撤廃の意味は明快です。時給が1,016円以上なら、週20時間を満たした時点で賃金要件は自動的に満たされる。賃金要件は、独立した条件としては働かなくなります。時給が高いほどその傾向は強く、全国加重平均の1,121円なら週18.1時間、東京の1,226円なら週16.6時間で、20時間に達する前に月額88,000円を超えます。
ただし、そこから「10月以降は週20時間で全員が加入する」と進むと、二段階で外れます。従業員50人以下の企業では企業規模要件が残り、最低賃金の減額の特例を受けている人は月額88,000円に届かなければ原則として加入しません。とくに後者は、賃金が低いほうの人が制度の外に置かれるという構図で、見落とすと説明を誤ります。
「週20時間未満に抑えれば安全」とも限りません
時給が1,250円を超えると、週20時間未満でも年収130万円に達し、健康保険の被扶養者から外れます(60歳以上等は180万円)。東京の最低賃金1,226円は、この分岐点のすぐ手前です。また複数の勤め先がある場合、労働時間は勤め先ごとに見る一方で、収入は合算して見られます。
私たちがFP相談の現場で聞くのは「働く時間を増やしたいが、社会保険料が引かれると手取りが下がるのが怖い」という声です。ただ、厚生年金・健康保険に入ることは負担が増えるだけではありません。将来の老齢厚生年金が増え、障害厚生年金の対象になります。健康保険では、被扶養者のままでは受け取れない傷病手当金・出産手当金が受け取れるようになります。そこまで含めて比べないと、判断を誤ります。
一方で、公的保障が一律に手厚くなると考えるのも正確ではありません。遺族厚生年金も対象にはなりますが、受け取れるかどうかは遺族の続柄と年齢で変わります。現行制度では54歳以下の夫に遺族厚生年金は支給されません(2026年8月27日のリリースで詳述)。増える部分と増えない部分を分けて見る必要があります。
IKIGAI TOWN 編集長 塩飽哲生