中退共・建退共の違いと従業員退職金の仕組み
助成金・加入手順を整理【2026】
中小企業退職金共済(中退共)と建設業退職金共済(建退共)は中小企業の従業員のための退職金制度。
目次(12セクション)
中退共の仕組み — 掛金月5,000〜30,000円の退職金制度
中小企業退職金共済(中退共)は、厚生労働省所管・独立行政法人勤労者退職金共済機構が運営する、中小企業専用の退職金制度です。自社で退職金制度を設計・運用する負担を避けつつ、従業員に退職金を準備できます。
掛金は16段階から選択
掛金は従業員ごとに月額5,000円〜30,000円の16段階で設定します。具体的には5,000円・6,000円・7,000円・8,000円・9,000円・10,000円・12,000円・14,000円・16,000円・18,000円・20,000円・22,000円・24,000円・26,000円・28,000円・30,000円です。
短時間労働者(パートタイマー等)には月額2,000円・3,000円・4,000円の特例掛金も用意されており、この特例掛金を選ぶと掛金助成が上乗せされます。
仕組みの流れ
- 事業主が勤労者退職金共済機構と退職金共済契約を結ぶ
- 毎月の掛金を事業主が全額納付する(口座振替)
- 従業員が退職したとき、機構から従業員本人に直接退職金が支払われる
Point
退職金は機構から従業員に直接支払われるため、事業主が退職金を流用するリスクがなく、従業員にとっての安心材料になります。
加入要件と対象従業員 — パート・家族従業員の取扱い
中退共に加入できるのは、従業員数・資本金が一定以下の中小企業です。業種別の上限は以下のとおりです。
| 業種 | 常用従業員数 | 資本金・出資金 |
|---|---|---|
| 一般業種(製造業・建設業等) | 300人以下 | 3億円以下 |
| 卸売業 | 100人以下 | 1億円以下 |
| サービス業 | 100人以下 | 5,000万円以下 |
| 小売業 | 50人以下 | 5,000万円以下 |
従業員数または資本金のいずれか一方が基準以下であれば加入できます。
対象になる従業員・ならない従業員
- 原則全員加入 — 雇用する従業員は原則として全員加入させます(包括加入の原則)
- パート・アルバイト — 短時間労働者も加入可能。特例掛金(月額2,000〜4,000円)を選べます
- 家族従業員 — 使用従属関係(雇用関係)が認められれば加入可能
- 加入できない人 — 事業主・役員(使用人兼務役員で従業員部分がある場合を除く)、個人事業主本人
Point
事業主本人や役員は中退共には加入できません。経営者自身の退職金準備には小規模企業共済を活用します。
掛金の損金算入 — 法人・個人事業主それぞれの経理処理
中退共の掛金は、事業主が全額負担します。従業員の給与から天引きすることはできません。
法人の場合
支払った掛金は全額が損金に算入されます。勘定科目は「福利厚生費」が一般的です。従業員ごとに掛金額が異なっていても、支払額の全額が損金となります。
個人事業主の場合
支払った掛金は全額が必要経費として計上できます。青色申告・白色申告のいずれでも経費算入が認められます。
従業員側の課税
事業主が納付した掛金は、従業員の給与所得にはなりません。従業員にとっては「事業主負担で退職金が積み立てられている」状態であり、掛金納付時点では課税されません。退職時に受け取る退職金は「退職所得」として、退職所得控除の適用を受けられます。
新規加入助成と月額変更助成 — 国の助成制度を活用する
中退共には国(厚生労働省)による2種類の助成制度があります。
1. 新規加入助成
- 初めて中退共に加入する事業主が対象
- 加入後4か月目から1年間、掛金月額の2分の1を助成
- 従業員1人あたり上限5,000円/月
- 短時間労働者の特例掛金(2,000〜4,000円)を選んだ場合は、上記に加えて掛金の差額分を上乗せ助成
2. 月額変更助成(増額助成)
- 掛金月額を18,000円以下の範囲で増額した場合が対象
- 増額月から1年間、増額分の3分の1を助成
- 20,000円以上への増額は助成対象外
具体例
従業員5人を月額10,000円で新規加入した場合、4か月目〜12か月目の9か月間で 5,000円 × 5人 × 9か月 = 225,000円 の助成を受けられます。
退職金の計算方法と受取 — いくらもらえるのか
中退共の退職金額は「掛金月額」と「掛金納付月数」で決まります。基本退職金額は法令で定められた金額表に基づきます。
基本退職金の目安
| 掛金月額 | 10年 | 20年 | 30年 |
|---|---|---|---|
| 5,000円 | 約60万円 | 約132万円 | 約214万円 |
| 10,000円 | 約120万円 | 約264万円 | 約428万円 |
| 20,000円 | 約240万円 | 約529万円 | 約856万円 |
| 30,000円 | 約360万円 | 約793万円 | 約1,284万円 |
※基本退職金額に付加退職金(運用実績に応じた上乗せ)が加算されることがあります。
受取方法
- 一時金(一括受取)— 退職所得として課税。退職所得控除が適用されます
- 分割受取 — 退職金額が一定以上の場合に選択可能(5年間または10年間の分割。雑所得として課税)
- 一部一時金+残り分割の併用も可
注意: 掛金納付が短期の場合
掛金納付月数が12か月未満の場合は退職金が支給されません。12か月以上〜24か月未満の場合は掛金納付総額を下回る額になります。24か月以上で掛金相当額、43か月以上から掛金総額を上回ります。
建退共の仕組み — 証紙方式と電子申請
建設業退職金共済(建退共)は、同じく勤労者退職金共済機構が運営する、建設業の現場労働者専用の退職金制度です。
証紙方式の仕組み
中退共が月額定額なのに対し、建退共は就労日数に応じた証紙を共済手帳に貼付する方式です。
- 証紙1枚 = 1日あたり320円(2026年現在)
- 元請事業者が下請の労働者分の証紙を購入し、下請事業者を通じて手帳に貼付
- 労働者が現場を移動しても、手帳に証紙が累積される
電子申請(CCUS連携)への移行
近年は建設キャリアアップシステム(CCUS)と連携した電子申請方式への移行が進んでいます。就業履歴がデジタルで記録され、証紙の貼付漏れを防ぎやすくなります。
退職金の目安
建退共の退職金は掛金納付日数で決まります。たとえば証紙252日(約1年相当)で約10万円、2,520日(約10年相当)で約103万円、5,040日(約20年相当)で約224万円です。21日(証紙21枚)未満は退職金が支給されません。
Point
建設業の経営事項審査(経審)では、建退共加入が加点項目です。公共工事入札を意識する事業者は実質的に加入が必須となります。
中退共と建退共の違い — 比較テーブル
中退共と建退共はどちらも勤労者退職金共済機構が運営する退職金制度ですが、対象・掛金方式・退職金計算が大きく異なります。
| 比較項目 | 中退共 | 建退共 |
|---|---|---|
| 対象業種 | 中小企業全般 | 建設業のみ |
| 対象者 | 従業員(全員加入が原則) | 建設現場の労働者 |
| 掛金方式 | 月額定額(5,000〜30,000円) | 日額証紙(1日320円) |
| 掛金負担 | 事業主が全額負担 | 元請が証紙購入 |
| 退職金計算 | 掛金月額 × 納付月数で算定 | 証紙貼付日数で算定 |
| 損金算入 | 全額損金 | 全額損金 |
| 新規加入助成 | 掛金の1/2(上限5,000円/月、1年間) | 初回の共済手帳に50日分の証紙を無料交付 |
| 経審加点 | なし | あり(W点で加点) |
| 通算 | 中退共同士・建退共等と通算可 | 建退共同士・中退共と通算可 |
建設業の事業者は、現場労働者には建退共、事務職など現場以外の従業員には中退共と使い分けるケースが一般的です。両制度の併用も認められています。
特退共・小規模企業共済との比較 — 制度の使い分け
中退共以外にも退職金・退職後資金に関する共済制度があります。対象者と目的が異なるため、正しく使い分けることが重要です。
| 制度 | 対象者 | 掛金 | 税制優遇 |
|---|---|---|---|
| 中退共 | 中小企業の従業員 | 月5,000〜30,000円 | 事業主:全額損金 従業員:退職所得 |
| 特退共 | 商工会議所等の会員企業の従業員 | 各商工会議所が設定 | 事業主:全額損金 従業員:退職所得 |
| 小規模企業共済 | 事業主・役員本人 | 月1,000〜70,000円 | 全額所得控除 受取時:退職所得 |
| 経営セーフティ共済 | 事業主(取引先倒産への備え) | 月5,000〜200,000円 | 全額損金(法人) 全額経費(個人) |
よくある組み合わせ
- 経営者本人:小規模企業共済 + iDeCo
- 従業員:中退共(または中退共 + 特退共の併用)
- 倒産リスク対策:経営セーフティ共済
中退共と特退共は併用が可能で、合算して従業員の退職金を厚くすることができます。ただし、同一の従業員について中退共の掛金月額を超える金額を特退共で積み立てるケースでは、全体の退職金設計を事前に整理しておくことが重要です。
転職時の通算制度 — ポータビリティの仕組み
従業員が転職しても退職金を無駄にしない仕組みとして、中退共には掛金納付月数の通算制度があります。
通算できるパターン
- 中退共 → 中退共:転職先も中退共に加入していれば、前の会社での納付月数を引き継げます
- 中退共 → 建退共・清退共・林退共:特定業種退職金共済への転職でも通算可能
- 建退共 → 中退共:逆方向の通算も可能
通算の手続き
- 退職日の翌日から2年以内に、転職先の事業所を通じて通算の申出を行う
- 前の事業所から「退職金共済手帳」を受け取っておく
- 通算が認められると、前後の納付月数が合算され、合算後の月数に応じた退職金が将来支払われる
注意
通算の申出は2年以内が期限です。退職時に退職金を受け取ってしまうと通算はできません。転職先が中退共に加入しているかを事前に確認しましょう。
経営者のための導入手順 — 申込みから掛金納付開始まで
中退共への加入手続きは、以下のステップで進めます。
ステップ1:加入申込書の入手
勤労者退職金共済機構のウェブサイトまたは最寄りの金融機関(委託事務取扱金融機関)で「退職金共済契約申込書」を入手します。
ステップ2:掛金月額の決定
従業員ごとに掛金月額を決定します。勤続年数・役職・給与水準に応じて差をつけることができます。就業規則や退職金規程に中退共を利用する旨を定めておくと、労使間のトラブル防止になります。
ステップ3:申込書の提出
記入した申込書を金融機関の窓口に提出します。申込書には事業主の印鑑と従業員の氏名・生年月日・掛金月額を記入します。
ステップ4:共済手帳の受領
機構から従業員ごとの「退職金共済手帳」が届きます。手帳は従業員に交付し、大切に保管してもらいます。
ステップ5:掛金の納付開始
指定口座からの口座振替で毎月自動引き落としとなります。申込月の翌月分から掛金が発生します。
実務のコツ
金融機関によっては、中退共の加入手続きと同時に融資相談ができるケースもあります。退職金制度の整備は金融機関からの信用にもつながるため、取引銀行を通じて手続きするのが効率的です。
よくあるトラブルと対策 — 未払い・減額・解約の注意点
トラブル1:掛金の未払い
口座残高不足等で掛金が未納になると、納付月数に算入されません。3か月以上の滞納で契約が解除される場合があります。口座振替の残高は毎月確認しましょう。
トラブル2:掛金の減額が難しい
掛金の減額には従業員の同意が必要です。従業員が同意しない場合は、厚生労働大臣の認定(現在の掛金月額の継続が著しく困難と認められるとき)が必要となります。増額は事業主の判断でできますが、減額は簡単ではありません。
トラブル3:懲戒解雇でも退職金が出る
中退共の退職金は機構から従業員に直接支払われるため、懲戒解雇であっても原則として退職金が支給されます。ただし、事業主が厚生労働大臣に申出て認定を受ければ、退職金の減額が認められる場合があります。
トラブル4:短期退職で元本割れ
掛金納付月数が12か月未満だと退職金はゼロ、24か月未満だと掛金納付総額を下回ります。新入社員がすぐ辞める可能性がある場合は、まず低い掛金でスタートし、定着を確認してから増額する方法もあります。
トラブル5:解約と契約解除
中退共契約を解約すると、従業員に「解約手当金」が支払われます。解約手当金は退職金よりも少額になる場合があり、また解約手当金は一時所得として課税されます(退職所得控除の適用なし)。企業規模が大きくなって中退共の加入要件を超えた場合は、確定拠出年金(企業型DC)等への移行も検討します。
よくある質問(FAQ)
- 中退共の掛金はいくらから設定できますか?
- 月額5,000円〜30,000円の16段階です。短時間労働者(パート等)は月額2,000円・3,000円・4,000円の特例掛金も選択できます。従業員ごとに異なる金額を設定でき、途中で増額・減額も可能です。
- 中退共に新規加入すると助成金はもらえますか?
- はい。新規加入の場合、加入後4か月目から1年間、掛金月額の2分の1(従業員ごと上限5,000円)が国から助成されます。また、掛金月額を増額した場合にも増額分の3分の1が1年間助成されます。
- 中退共と建退共の違いは何ですか?
- 中退共は業種を問わず中小企業全般が対象で、月額定額の掛金を事業主が納付します。建退共は建設業の現場労働者専用で、就労日数に応じた証紙(1日320円)を手帳に貼付する日額方式です。建退共は経営事項審査(経審)の加点項目にもなります。
- 従業員が転職したら中退共の退職金はどうなりますか?
- 転職先も中退共に加入していれば、掛金納付月数を通算できます。転職先が特定業種退職金共済(建退共・清退共・林退共)に加入している場合も通算が可能です。通算の申出は退職後2年以内に行う必要があります。
- 中退共の掛金は経費になりますか?
- はい。法人の場合は全額損金算入、個人事業主の場合は全額必要経費として計上できます。掛金は事業主が全額負担する仕組みで、従業員の給与所得にはなりません。
- 特退共や小規模企業共済と中退共は併用できますか?
- 中退共と特退共(特定退職金共済)は併用可能です。ただし小規模企業共済は事業主・役員本人のための制度であり、従業員向けの中退共とは対象者が異なります。事業主本人は小規模企業共済、従業員には中退共という使い分けが一般的です。
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-
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出典・改訂履歴・免責事項を見る
本ページの制度概要・要件・税率は、以下の公式情報を編集部が確認のうえ整理しています(執筆時点)。最新かつ正確な情報は必ず各公式サイトでご確認ください。FPは記事を直接監修してはおらず、関連テーマでご相談を受けるFPとしてご紹介しています。
- 出典: 中小機構(独立行政法人 中小企業基盤整備機構)公式サイト — 小規模企業共済・倒産防止共済の所管
- 出典: 国税庁 公式サイト — 所得税・法人税・インボイス・退職所得控除
- 出典: 日本政策金融公庫 公式サイト — 創業融資・事業承継融資
- 出典: 中小企業庁 公式サイト — 事業承継税制・補助金
- 出典: 勤労者退職金共済機構 公式サイト — 中退共・建退共
最終確認日:2026年5月15日
※本記事は2026年5月時点の一般的な情報であり、個別の税務・経営・法務相談に代わるものではありません。各制度の適用要件・税額は個人の状況により異なります。実行にあたっては、必ず公式情報および税理士・社労士・FP・弁護士など専門家にご相談ください。本記事の情報により生じたいかなる損害についても、当サイトでは責任を負いかねます。
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