中小企業の事業承継完全ガイド
M&A・親族内承継・事業承継税制を
後悔なく選ぶ【2026】
中小企業の事業承継は「親族内承継/従業員承継(MBO)/第三者承継(M&A)」の3択。事業承継税制の特例措置(特例承継計画は2026年3月末まで・実行は2027年12月末まで)を使えば、自社株の贈与税・相続税を100%猶予できます。後継者不在の場合はバトンズ等の小規模M&Aプラットフォームで譲渡先を探せます。
目次(13セクション)
事業承継の3つの型と選び方
中小企業の事業承継は、後継者の所在によって次の3つに大別されます。中小企業庁「中小企業実態基本調査」では、近年は第三者承継(M&A)の割合が親族内承継を上回り、もっとも多い型になっています。
| 型 | 後継者 | 主なメリット | 主な論点 |
|---|---|---|---|
| 親族内承継 | 子・配偶者・兄弟 | 取引先・従業員の理解を得やすい/事業承継税制をフル活用しやすい | 遺留分・他の相続人との公平/後継者の経営力 |
| 従業員承継(MBO・EBO) | 役員・従業員 | 事業内容を熟知/文化を維持できる | 後継者の自社株買取資金(公庫融資・信託銀行の活用) |
| 第三者承継(M&A) | 外部企業・個人 | 後継者不在でも事業を残せる/創業者利益を確保 | 譲渡価格の妥当性/従業員の処遇/表明保証 |
選定の順番は、①親族内に後継者候補がいるか確認 → ②いなければ役員・従業員から選ぶ → ③それも難しければM&A、というのが王道です。ただし「子に継がせたいが本人にその気がない」状態で時間を浪費するケースが非常に多いため、60歳前後で必ず後継者候補と意思確認すべきです。
事業承継税制(特例措置)の納税猶予
事業承継税制は、後継者が先代経営者から自社株を贈与・相続で取得した際の贈与税・相続税を100%納税猶予する制度です。一般措置と特例措置の2つがあり、現在の主役は特例措置です。
| 項目 | 一般措置 | 特例措置 |
|---|---|---|
| 対象株数 | 発行済議決権株式の3分の2まで | 全株式 |
| 猶予割合 | 贈与税100%・相続税80% | 贈与税・相続税ともに100% |
| 後継者数 | 1人 | 最大3人 |
| 雇用確保要件 | 5年平均で雇用8割維持必須 | 未達でも理由報告で継続可 |
| 特例承継計画の提出期限 | 不要 | 2026年3月31日まで |
| 贈与・相続の実行期限 | 制限なし | 2027年12月31日まで |
特例措置を使うには、認定経営革新等支援機関(税理士・商工会議所・金融機関等)の指導を受けた「特例承継計画」を都道府県に提出する必要があります。提出は2026年3月末が期限なので、検討しているなら今すぐ動くべきタイミングです。
猶予は「免除」ではなく「先送り」
納税猶予はあくまで税の繰り延べであり、後継者が代表を退任したり株式を売却したりすると猶予は打ち切りとなり、利子税付きで全額納付が必要になります。「次の次」の承継まで含めて長期設計をするのが鉄則です。
一般措置 vs 特例措置:納税猶予額シミュレーション
特例措置と一般措置では猶予される税額に大きな差が出ます。自社株評価額ごとに、贈与税の納税猶予額をシミュレーションします。
前提条件
- 先代経営者(父)が後継者(長男)に全株式を一括贈与
- 贈与税の税率は暦年贈与の特例税率(直系尊属→20歳以上)を適用
- 基礎控除110万円、他の贈与なし
| 自社株評価額 | 贈与税額(特例なし) | 一般措置の猶予額 (2/3株・100%猶予) | 特例措置の猶予額 (全株・100%猶予) | 特例での実質負担 |
|---|---|---|---|---|
| 5,000万円 | 約2,050万円 | 約1,300万円 | 約2,050万円 | 0円 |
| 1億円 | 約4,800万円 | 約3,000万円 | 約4,800万円 | 0円 |
| 2億円 | 約1.1億円 | 約6,800万円 | 約1.1億円 | 0円 |
| 5億円 | 約2.7億円 | 約1.7億円 | 約2.7億円 | 0円 |
計算例:自社株評価額1億円の場合
贈与税の計算:(1億円 − 110万円)× 55% − 640万円 = 約4,800万円
一般措置では対象が発行済議決権株式の2/3までなので、全株贈与しても猶予の対象は約6,700万円分。猶予額は約3,000万円で、残り約1,800万円は自己負担。
特例措置なら全株が対象となり、約4,800万円の贈与税が全額猶予されます。この差額だけで約1,800万円の差です。
相続時の比較
| 項目 | 一般措置 | 特例措置 |
|---|---|---|
| 猶予対象株数 | 発行済議決権株式の2/3 | 全株式 |
| 猶予割合 | 80% | 100% |
| 自社株1億円の猶予額 | 約1,900万円 | 約3,100万円 |
| 差額(特例のメリット) | 約1,200万円 | |
株価が高い会社ほど特例措置の恩恵が大きくなります。自社株評価額5億円の場合、贈与・相続合わせて特例と一般の差は1億円を超えるケースもあります。
非上場株式の評価と引き下げ
事業承継で最大の論点は「自社株の評価額」です。非上場株式は次の3方式で評価します。
- 類似業種比準価額:同業上場企業の株価・配当・利益・純資産から算定(大会社)
- 純資産価額:会社の資産・負債を相続税評価額で再計算(小会社)
- 併用方式:上記の組み合わせ(中会社)
株価を下げる代表的な手法は次の通りです。いずれも実行年度の決算書に効くため、贈与・譲渡の1〜2年前から逆算して準備します。
| 手法 | 効く評価方式 | 狙い |
|---|---|---|
| 役員退職金の支給 | 類似業種・純資産 | 利益・純資産を一気に圧縮 |
| 大型設備投資(即時償却) | 類似業種・純資産 | 減価償却で利益・純資産を下げる |
| 含み損資産の売却 | 純資産 | 含み損を実現させ評価額を下げる |
| 配当の引き下げ | 類似業種 | 「配当」要素の比準値を下げる |
| 高収益部門の分社化 | 類似業種 | 本体の利益を圧縮する |
これらは個別には合法ですが、「贈与のためだけに行った」と税務署に判断されると否認リスクがあります。経営合理性のあるストーリーで整理し、税理士・FPと書面で根拠を残すのが鉄則です。
株価引き下げシミュレーション:役員退職金で株価はいくら下がるか
株価引き下げ策の中で即効性が高いのが役員退職金の支給です。退職金は損金算入されるため、利益・純資産の両面で株価を下げます。具体的にどのくらいの効果があるかをシミュレーションします。
モデルケース:製造業・年商3億円・従業員20名
| 項目 | 退職金支給前 | 退職金5,000万円支給後 |
|---|---|---|
| 経常利益 | 4,000万円 | ▲1,000万円(赤字) |
| 純資産 | 1億5,000万円 | 1億1,500万円 (退職金5,000万円 − 法人税等△1,500万円) |
| 類似業種比準価額 | 1株 8,000円 | 1株 3,200円(利益0で大幅低下) |
| 純資産価額 | 1株 7,500円 | 1株 5,750円 |
| 併用方式(Lの割合0.6) | 1株 7,800円 | 1株 4,220円 |
| 発行済2万株の総額 | 1億5,600万円 | 8,440万円 |
計算のポイント
退職金の適正額 = 最終報酬月額 × 在任年数 × 功績倍率
例:月額報酬100万円 × 30年 × 功績倍率2.0 = 6,000万円が上限目安
功績倍率は業種・規模・地域で異なりますが、社長で2.0〜3.0倍が一般的です。この範囲内であれば損金算入が認められるケースが多いですが、税務署から過大退職金と指摘されるリスクもあるため、同業・同規模の退職金水準を税理士と事前に確認してください。
退職金と設備投資を組み合わせた場合
| 施策の組み合わせ | 株価(1株) | 引き下げ率 |
|---|---|---|
| 何もしない | 7,800円 | — |
| 退職金5,000万円のみ | 4,220円 | ▲46% |
| 退職金5,000万円+設備投資3,000万円(即時償却) | 2,900円 | ▲63% |
| 退職金5,000万円+設備投資3,000万円+配当ゼロ | 2,400円 | ▲69% |
3施策の組み合わせで株価を約7割引き下げられる計算です。発行済2万株の場合、総額が1億5,600万円→4,800万円になり、贈与税の課税対象が約1億円減少します。ただし設備投資は事業上の合理性が前提であり、節税目的だけで行うと否認リスクが高まります。
M&Aによる第三者承継の進め方
後継者不在の中小企業が増えたことで、M&A市場は急拡大しています。中小企業のM&Aは次のステップで進みます。
- 仲介会社・プラットフォーム選定:M&A総合研究所・日本M&Aセンター・バトンズ(小規模特化)など
- ノンネームシート作成:社名を伏せた概要書で買い手候補を募集
- トップ面談・基本合意:意向表明書(LOI)を経て独占交渉
- デューデリジェンス(DD):財務・税務・法務・人事の精査
- 最終契約・クロージング:株式譲渡契約(SPA)締結・対価決済
- PMI(経営統合):従業員・取引先・システムの統合
| プラットフォーム/仲介 | 強み | 主な対象規模 |
|---|---|---|
| バトンズ | 登録案件数最大級・小規模対応 | 年商数千万〜数億円 |
| M&A総合研究所 | AI仲介・スピード成約 | 年商1億〜数十億円 |
| 事業承継・引継ぎ支援センター | 国(中小企業庁)の公的窓口・無料 | 全規模 |
譲渡対価は、年買法(営業利益×3〜5年+純資産)やEBITDAマルチプル(EBITDA×倍率)で算定するのが一般的です。仲介手数料はレーマン方式(譲渡価格に応じて段階的)が主流で、最低手数料は500〜2,000万円程度。事業承継・引継ぎ支援センターを併用すれば、無料で第二の選択肢を得られます。
譲渡対価の算定式(年買法/EBITDAマルチプル)
小規模M&Aで多用されるのは年買法(営業権法)です。シンプルゆえ売り手・買い手の合意が早い反面、利益を「実態ベース」に組み替える調整が肝になります。
| 算定式 | 計算例 | 使う場面 |
|---|---|---|
| 年買法 | 修正後営業利益2,000万円 × 3年 + 時価純資産5,000万円 = 1.1億円 | 年商1〜10億円の小規模M&A |
| EBITDAマルチプル | EBITDA 4,000万円 × 5倍 = 2億円(業界平均倍率を当てる) | 中堅・成長企業 |
| DCF法 | 将来CFを割引率(WACC)で現在価値化 | 大型・上場企業の入札案件 |
「修正後営業利益」は、役員報酬を市場相場に置き換える/オーナー私的経費を戻す/一時的な特別損益を除外する、の3点で求めます。年商1億円規模の譲渡で役員報酬の調整だけで譲渡価格が3,000万円以上動くこともあるため、買い手DD前にこの調整を整えておくのが定石です。
DDで指摘される頻出論点TOP10
譲渡を破談に追い込む典型論点はだいたい同じです。事前に潰しておけばクロージング確度が大きく上がります。
- 未払残業代・固定残業の整合(労務DDで最頻出)
- 社会保険の加入漏れ・標準報酬月額の誤り
- 架空在庫・滞留在庫の評価減
- 役員貸付金・仮払金の長期残高
- 親族取引の独立企業間価格との乖離
- 許認可(建設業・宅建業・古物商等)の名義承継可否
- 主要取引先・主要顧客との契約継続条項(COC条項)
- 知財・商標・ドメインの法人帰属
- 偶発債務(係争・保証・原状回復)
- システム・SaaSライセンスの譲渡可否
親族内承継 vs MBO vs M&A:費用・期間・リスク比較
3つの承継方式は、かかる費用・完了までの期間・主要リスクが大きく異なります。自社の状況に最適な方式を選ぶための比較表です。
| 比較項目 | 親族内承継 | 従業員承継(MBO) | 第三者承継(M&A) |
|---|---|---|---|
| 準備期間 | 5〜10年 | 3〜7年 | 6か月〜2年 |
| 主な費用 | 贈与税・相続税 (納税猶予で0円可) | 株式買取資金 (公庫融資を活用) | 仲介手数料(レーマン方式) 最低500〜2,000万円 |
| 譲渡対価 | 原則なし (贈与・相続) | 時価が目安 (第三者間取引と異なり低め可) | 年買法・EBITDA倍率 で算定 |
| 株式取得資金の調達 | 不要 | 公庫融資・信託銀行 経営承継円滑化法の金融支援 | 買い手が調達 |
| 従業員の反応 | 比較的安定 (顔見知りの後継者) | 安定 (内部から昇格) | 不安が出やすい (PMIが鍵) |
| 取引先の継続性 | 高い | 高い | COC条項の確認必須 |
| 創業者の手取り | 退職金のみ | 株式譲渡対価+退職金 | 株式譲渡対価+退職金 (最も大きい傾向) |
| 最大リスク | 後継者の経営力不足 遺留分トラブル | 買取資金の返済負担 後継者への権限移譲 | 表明保証違反 PMI失敗 |
| 事業承継税制の適用 | ◎ フル活用 | ○ 適用可 (要件を満たせば) | × 適用なし (譲渡所得課税20.315%) |
方式選定のフローチャート
- 親族に後継者候補がいるか? → Yes:親族内承継を最優先で検討
- 親族候補に経営の意思と能力があるか? → No:従業員承継(MBO)を検討
- 従業員に後継者候補がいるか? → Yes:MBOの資金調達(公庫融資等)を設計
- 従業員候補も不在か? → M&A(第三者承継)へ移行
- M&Aでも買い手が見つからないか? → 廃業(ただし事業承継・引継ぎ補助金の「廃業・再チャレンジ」枠も活用可能)
重要なのは、「この方式しかない」と思い込まないことです。親族内承継を前提に準備していても、後継者の意思が変われば途中でMBOやM&Aに切り替える柔軟性が必要です。だからこそ、早い段階で3方式すべてのシミュレーションを出しておくのが理想です。
公的支援と相談窓口
事業承継には国・自治体・公的金融機関の支援メニューが多数用意されています。代表的なものを整理します。
| 支援メニュー | 運営 | 内容 |
|---|---|---|
| 事業承継・引継ぎ補助金 | 中小企業庁 | 専門家活用・経営革新・廃業再チャレンジを最大800万円補助 |
| 事業承継・引継ぎ支援センター | 中小企業庁(各都道府県) | 後継者マッチング・M&A仲介・無料相談 |
| 事業承継融資 | 日本政策金融公庫 | 後継者の株式買取資金・MBO資金・運転資金(低利・長期) |
| 経営承継円滑化法 | 中小企業庁 | 遺留分の特例(除外合意・固定合意)・金融支援・税制特例 |
| 事業承継税制 | 国税庁 | 自社株の贈与税・相続税の100%納税猶予 |
相談先の優先順位は、まず事業承継・引継ぎ支援センター(無料)と顧問税理士。そのうえで、家計・退職金・相続を含めた個人側の設計はFPに、株式評価・特例承継計画は税理士に分担するのが効率的です。
事業承継前の準備チェックリスト(20項目)
事業承継を始める前に、現状を漏れなく棚卸しするためのチェックリストです。「やったつもり」で進めて土壇場で問題が発覚する事故を防ぎます。
A. 経営・財務の棚卸し(8項目)
- ☐ 過去3期分の決算書(BS/PL/CF)を手元に揃えた
- ☐ 自社株の評価額を税理士に試算してもらった(類似業種比準・純資産・併用)
- ☐ 株主名簿を最新化し、名義株・散逸株の有無を確認した
- ☐ 役員貸付金・仮払金の残高を確認し、解消計画を立てた
- ☐ 簿外債務(未払残業代・退職給付・リース・保証)を洗い出した
- ☐ 許認可(建設業・宅建業・食品営業・古物商等)の名義と有効期限を確認した
- ☐ 主要取引先との契約にCOC条項(チェンジ・オブ・コントロール)がないか確認した
- ☐ 知財・商標・ドメイン・SNSアカウントが法人名義になっているか確認した
B. 後継者・人事の確認(5項目)
- ☐ 後継者候補(親族・従業員)と承継の意思を書面で確認した
- ☐ 後継者の経営力育成計画(外部研修・子会社社長経験等)を策定した
- ☐ キーパーソン(番頭・営業責任者・技術者)の残留意向を確認した
- ☐ 就業規則・給与体系を見直し、承継後も運用できる状態にした
- ☐ 社会保険・労働保険の加入状況に漏れがないか確認した
C. 法務・税務の整備(4項目)
- ☐ 遺言書を作成し、自社株の承継先を明記した(公正証書が望ましい)
- ☐ 遺留分の特例(除外合意・固定合意)の活用を検討した
- ☐ 特例承継計画の提出要否を認定経営革新等支援機関に相談した
- ☐ 個人保証(経営者保証ガイドライン)の解除・承継方針を金融機関と協議した
D. 個人の資産・家計(3項目)
- ☐ 役員退職金の支給額と時期を税理士と試算した
- ☐ 小規模企業共済・iDeCo・生命保険の受取時期を分散設計した
- ☐ 承継後の生活費・老後資金のキャッシュフロー表をFPと作成した
チェックリストの使い方
全20項目のうち、☐が5つ以上残っている段階で承継実行に踏み切ると、DD(デューデリジェンス)で指摘を受けたり、承継後にトラブルが発生するリスクが高まります。最低でもA・Bの13項目はすべてクリアしてから次のステップに進んでください。
後悔しない事業承継の7ステップ
承継完了までは平均5〜10年。後悔しないための実務手順を、開始から PMI(経営統合)後までの時系列で整理します。
| STEP | 時期目安 | やること | 主な相手 |
|---|---|---|---|
| 1. 現状分析 | 引退の5〜10年前 | 決算3期分・株主名簿・親族関係図・株価試算の棚卸し | 顧問税理士・FP |
| 2. 後継者の意思確認 | 5〜7年前 | 親族・従業員候補と書面で意思確認 | 家族・後継者候補 |
| 3. 特例承継計画の作成 | 2026年3月末まで | 認定経営革新等支援機関と計画書を作成・都道府県提出 | 税理士・商工会議所 |
| 4. 株価引き下げ施策 | 贈与の1〜2年前 | 役員退職金・大型設備投資・含み損整理・配当圧縮 | 税理士・FP |
| 5. 承継実行 | 2027年12月末まで | 贈与・相続実行、M&AならSPA締結 | 税理士・弁護士・M&Aアドバイザー |
| 6. PMI(経営統合) | 実行〜2年 | 取引先・金融機関への通知、システム・契約の見直し | 後継者・主要取引先 |
| 7. 個人家計の再設計 | 承継後 | 退職金・小規模企業共済の受取年分散、譲渡対価の運用 | FP |
もっとも崩れやすいのは STEP2の意思確認です。「子は継ぐと思っていた」状態のまま STEP3 以降を進め、土壇場で白紙に戻る事例が少なくありません。毎年1回、書面で意思確認するくらいの慎重さがちょうど良い温度感です。
承継後の個人資産運用と老後設計
事業承継が完了すると、創業者には役員退職金・株式譲渡対価・小規模企業共済の解約金などまとまった資金が入ります。「受け取って終わり」ではなく、受取時期の分散と税負担の最適化が承継後の家計を大きく左右します。
受取資金の税率比較
| 資金の種類 | 課税区分 | 実効税率の目安 | 受取時の注意点 |
|---|---|---|---|
| 役員退職金 | 退職所得(1/2課税) | 10〜25%程度 (勤続年数で控除額が増える) | 退職所得控除 = 40万円×勤続年数(20年以下) or 800万円+70万円×(勤続年数−20年) |
| 株式譲渡対価 | 申告分離課税 | 20.315%(定率) | 取得費が不明の場合、譲渡価額の5%で計算され税負担が増大 |
| 小規模企業共済(一括) | 退職所得 | 10〜25%程度 | 役員退職金と受取年を分けると退職所得控除を2回使える |
| 小規模企業共済(分割) | 公的年金等の雑所得 | 5〜20%程度 | 公的年金と合算されるため受給開始年齢に注意 |
| iDeCo(一括) | 退職所得 | 10〜25%程度 | 退職金と同年受取だと退職所得控除を合算(二重取り不可) |
| 生命保険の解約返戻金 | 一時所得(1/2課税) | 10〜25%程度 | 特別控除50万円あり。他の一時所得と合算 |
受取時期の分散シミュレーション
| 年度 | 受取内容 | 金額(税引前) | 課税区分 |
|---|---|---|---|
| 65歳(承継年) | 役員退職金 | 5,000万円 | 退職所得 |
| 66歳 | 株式譲渡対価(M&Aの場合) | 1億円 | 申告分離課税 |
| 70歳 | 小規模企業共済(一括受取) | 1,200万円 | 退職所得(5年ルールに注意) |
| 75歳〜 | iDeCo(分割受取) | 年60万円×15年 | 公的年金等の雑所得 |
5年ルールに注意
2022年の税制改正で、退職金を受け取ってから5年以内に別の退職所得(小規模企業共済の一括受取など)を受け取ると、退職所得控除が通算される(二重取りできない)ようになりました。役員退職金と小規模企業共済の受取年は最低5年、できれば6年以上空けるのが鉄則です。
事業承継で使える税制・特例の早見表
事業承継に関連する税制優遇・特例を一覧にまとめました。使い漏れを防ぐためのチェックリストとして活用してください。
| 制度名 | 対象 | 効果 | 期限・要件 |
|---|---|---|---|
| 事業承継税制(特例措置) | 非上場株式の贈与・相続 | 贈与税・相続税を100%納税猶予 | 特例承継計画:2026年3月末 実行:2027年12月末 |
| 事業承継税制(一般措置) | 非上場株式の贈与・相続 | 贈与税100%・相続税80%を猶予 (株式の2/3まで) | 期限なし(恒久措置) |
| 相続時精算課税制度 | 60歳以上→18歳以上への贈与 | 2,500万円まで非課税 (相続時に精算) | 一度選択すると暦年贈与に戻せない |
| 遺留分の民法特例 (除外合意・固定合意) | 後継者への自社株集中 | 自社株を遺留分算定から除外 or 贈与時の評価額で固定 | 推定相続人全員の合意+家裁許可 |
| 経営者保証ガイドライン | 経営者の個人保証 | 一定条件で個人保証を解除 | 金融機関との協議 |
| 小規模宅地等の特例 | 事業用宅地の相続 | 400m²まで80%減額 | 相続開始前に事業供用+後継者が継続 |
| 退職所得控除 | 役員退職金 | 勤続20年超は年70万円ずつ控除が増加 | 退職の事実が必要 |
| 事業承継・引継ぎ補助金 | M&A・経営革新・廃業再チャレ | 最大800万円(補助率2/3) | 公募期間に申請 |
| 日本政策金融公庫 事業承継融資 | MBO・株式買取資金 | 低利・長期の融資 | 事業計画の提出 |
特に見落としやすいのが小規模宅地等の特例です。自社工場・事務所の敷地を社長個人が所有しているケースでは、後継者が事業を継続する前提で土地の評価額を80%減額できます。自社株と合わせて検討することで、相続税の総額を大幅に圧縮できます。
よくある質問(FAQ)
- 事業承継税制(特例措置)はいつまでに何をすればよいですか?
- 特例承継計画の提出期限は2026年3月末(令和8年3月31日)。実際の贈与・相続は2027年12月末までに行う必要があります。期限を過ぎると一般措置(猶予割合80%・雇用維持要件あり)に戻り、納税猶予できる金額が大きく減ります。株価が高い会社ほど早期着手の効果が大きい制度です。
- 後継者がいない中小企業はM&A以外に選択肢はありますか?
- 第三者承継(M&A)/従業員承継(MBO・EBO)/廃業の3つです。バトンズ・M&A総合研究所などの仲介プラットフォームは小規模案件にも対応しており、年商1億円未満の譲渡実例も多数あります。廃業を決める前に、事業承継・引継ぎ補助金や日本政策金融公庫の事業承継融資を活用してMBOを検討する余地は大きいです。
- 株価が高すぎて贈与税が払えません。株価を下げる方法はありますか?
- 非上場株式の評価額(類似業種比準価額・純資産価額)は、役員退職金支給・大型設備投資・含み損資産の処分・配当圧縮などで一時的に引き下げられます。ただし「贈与のためだけに行った」と認定されると否認リスクがあるため、経営合理性のあるストーリーを整え、税理士・FPと書面で根拠を残してから実行してください。
- 親族内承継で兄弟間の遺留分が心配です。どう備えますか?
- 経営承継円滑化法の「遺留分に関する民法の特例」を使うと、後継者に集中させた自社株を遺留分計算の対象外にできます(除外合意)。または贈与時の評価額で固定する(固定合意)こともできます。家庭裁判所の許可と推定相続人全員の合意が必要なので、早めに弁護士・税理士に相談しましょう。
- M&Aで譲渡したあと、譲渡対価への税金はどうなりますか?
- 個人株主が非上場株式を譲渡した場合、譲渡所得(株式等に係る譲渡所得等)として20.315%(所得税15.315%+住民税5%)の申告分離課税になります。給与・事業所得と分離されるため、譲渡対価1億円に対し約2,000万円が税金です。受取の翌年に確定申告が必要です。
- 経営者保証(個人保証)は事業承継時にどうなりますか?
- 金融機関からの借入に対する経営者の個人保証は、承継時に大きな論点になります。「経営者保証ガイドライン」に基づき、法人と経営者の資産分離が明確であること、財務基盤が十分であること、適時適切な情報開示をしていることの3要件を満たせば、後継者が個人保証を引き継がずに済む可能性があります。2023年4月からは「経営者保証改革プログラム」により、保証を求めない融資の拡大が進んでいます。承継前に金融機関と保証解除の交渉を行い、解除が難しい場合は事業承継・引継ぎ支援センターに相談してください。
事業のお金を調べたあとに
補助金や制度を調べたあと、事業と暮らしを守る3つの見方
事業のお金は、制度の対象だけでなく、資金繰り、助成金の取り逃し、家族の生活費を同時に見る必要があります。
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「不安だから働き続ける、から必要な備えを作るに変わりました」
収入変動、生活防衛資金、国保・年金、教育費を整理したケース。
K.Sさん(50代・男性・小規模法人)
★★★★★ 役員報酬・退職準備
「会社のお金と家族のお金を分けて考えられました」
役員報酬、法人保険、退職金、家族生活費を一枚にしたケース。
※相談内容をもとに個人が特定されない形で要約した例です。実際の提案内容は家計・制度・時期により異なります。
無料相談の流れ
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STEP1. 予約
希望日時を選んで、無料相談を予約します(Google Meet 30分から)。
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STEP2. 事業資金と生活費を分けて確認
売上、固定費、税金、生活費、家族の支出を確認します。
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STEP3. 資金繰りと制度活用を整理
補助金、融資、税金、社会保険、生活防衛資金を同じ表に置きます。
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STEP4. 事業と暮らしが崩れない家計を整理
助成金、家族の生活費、将来資金を残す順番を決めます。
相談を担当するFP
左右木 伸也 (そうき しんや)
最上位資格を持つFPとして、家計に関するあらゆるご相談をトータルでサポートいたします。 事業資金・生活費・固定費を同じ表に置いて整理します。
安心してご相談いただくために
なぜ無料なの?
金融機関からの契約手数料で運営しております。お客さまには相談に関する料金負担が一切ございませんので安心してご相談ください。
- すべてウェブ相談です。パソコン・スマホから、全国どこでもご相談いただけます(来店不要)。
- 気軽にご相談ください。ちょっとした悩みを話して聞いてもらうだけでもOKです。
「相談しようと思っていた時に、いいきっかけだった」という声もよくいただきます。
ここまで読んだあとに
事業のお金を見たあと、暮らしまで我慢だけにしない3つの体験
事業主は、忙しさと資金繰りで家族の楽しみを後回しにしがちです。事業資金と生活費を分け、休む日や外食の余白も守ります。
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本ページの制度概要・要件・税率は、以下の公式情報を編集部が確認のうえ整理しています(執筆時点)。最新かつ正確な情報は必ず各公式サイトでご確認ください。FPは記事を直接監修してはおらず、関連テーマでご相談を受けるFPとしてご紹介しています。
- 出典: 中小企業庁 公式サイト — 事業承継税制・事業承継ガイドライン・補助金
- 出典: 国税庁 公式サイト — 非上場株式評価・贈与税・相続税の納税猶予
- 出典: 事業承継・引継ぎ支援センター(中小機構) — 後継者マッチング・無料相談
- 出典: 日本政策金融公庫 公式サイト — 事業承継融資・MBO融資
- 出典: バトンズ 公式サイト — 小規模M&Aプラットフォーム
最終確認日:2026年5月15日
※本記事は2026年5月時点の一般的な情報であり、個別の税務・経営・法務相談に代わるものではありません。各制度の適用要件・税額は個人・法人の状況により異なります。実行にあたっては、必ず公式情報および税理士・社労士・FP・弁護士・M&Aアドバイザーなど専門家にご相談ください。本記事の情報により生じたいかなる損害についても、当サイトでは責任を負いかねます。
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